NO.63 H29.10.14

「となりのトトロ」や「天空の城ラピュタ」といった名作アニメ映画の監督である宮崎駿さんは、

4年前に長編アニメ制作からの引退を発表しました(この度1作だけの復帰を発表しました)。

 

その引退記者会見で宮崎さんが発した言葉を、僕は今でも忘れられません。

 

僕の記憶によると,会見の半ばである質問者が尋ねた

「どういうことを考えながら作品を作っていたのですか?」という問いに対して、

宮崎さんは間髪入れずにこう答えたのでした。

 

「子供たちに『この世は生きるに値する』ということを伝えたかったんです」と。

 

正確には、「すべての作品を通して伝えようと意識してきたメッセージは?」という問いに対して、

「僕は児童文学の多くの作品に影響を受けてこの世界に入ったので、

基本的に子供たちにこの世は生きるに値するんだ、ということを伝えるのが

自分たちの仕事の根幹になければいけないと思ってきました。それは今も変わりません」という返答でした。

 

僕も宮崎さんの作品をいくつか見てきました(映画館に足を運んだこともあります)が、

どちらかと言えばあまり熱心なファンではありませんでした。

けれども、長年にわたり日本のみならず世界中のファンの心をつかみ、

「千と千尋の神隠し」で映画界最高の名誉であるアカデミー賞(長編アニメ映画賞)も受賞しているのですから、

(この度の復帰も世界中のファンに歓迎されています)、

僕は「この人には本当に素晴らしい才能があるのだな」と漠然と思っていました。

 

ところが、この言葉を耳にした瞬間に,僕は自分を恥じたのです。

 

それは「子供たちに『この世は生きるに値する』ということを伝えたかった」という思いが

決して才能から発せられたものではなく、

むしろ宮崎さんの「人間性そのもの」から発せられたものなのだ、

と理解できたからです。

 

「真に人の心を動かすのは、能力や才能ではなく人間性なのだ」ということを、

僕はその日初めて理解できました。

 

「何かができる」ということは言うまでもなく大切な資質です。

けれども、その資質が「どのような人間性に根差しているのか」というのは

その人間の本質に関わる要素だと僕は思います。

 

4年前に出会った宮崎さんのこの言葉は、それ以来ずっと僕に問いかけます。

「君は何を伝えたくてその仕事をしているんだい?」と。

 

その問いに対する自分なりの答えを見つけたくて、自分で納得したくて、

僕は今日もこの仕事を続けています。

 

 

<追伸>

ぜん息の発作で体調がすぐれず,各学年でご迷惑をおかけしております。

大変申し訳ございません。

一日も早く身体を元に戻して,生徒たちに良い授業を届けたいと思います。