「求めなければ何も叶わない。望まなければ何も手に入らない。それはわかる。でも何を求めればいいのかわからない。自分が本当に何をしたいのかがわからない」今の世の中にはこういう子供たちがあふれているような気がします。おそらくフリーターやニートと呼ばれる人達のほとんどもこういった思いを抱いているのでしょう。
しかし,僕は殊更それを不思議に思ったりしません。むしろ「それは当然だよな」と思っています。なぜなら,世の中にはやりたいことややりがいのあることが見つからず,ただ生活のために仕事をしている大人たちが大勢いるからです。子供たちは大人たちを見て,じっくりと観察して育ちます。そして赤ちゃんが親の言った言葉をオウム返しに発するのと同様に,子供たちは周囲の大人たちが自ら行動したように行動します。逆を言えば,ほとんどの子供は大人たちがやるようなことしかイメージがわきません。
例えば,僕自身がそうでした。僕の両親はどちらも中学校までしか卒業していません。したがって,二人とも勉強らしい勉強などほとんどしたことがありません。しかしと言うべきかだからと言うべきか,母親は僕に勉強するように言いました。「お母さんは勉強しないでつらい思いをしてきたから,お前はしっかり勉強をしなさい」と。しかし,僕は勉強をしませんでした。本も一切読みませんでした。親への反発もあったのだと思いますが,それよりも勉強するというイメージがどうしてもわかなかったのです。父親も母親も祖母も姉も誰も勉強していない家の中で,家の中に本など(絵本すら)一冊もない環境の中で,さして学校の勉強に困っている訳でもないのに勉強をしたり,また何か知りたいことがあるという訳でもないのに本を読むというイメージが僕には全くわかなかったのです。
それとは違って,好きな野球のイメージはどんどん膨らんでいきました。テレビではプロ野球や甲子園の中継がありましたし,身近にも草野球をやっている大人たちがたくさんいました。つまり,お手本がいくらでもあったのです。最初は見よう見まねから始まり,後に野球の面白さや奥深さがわかってくると僕はそれにのめりこんで生きました。今考えても,それは当然の成り行きでした。
その後,僕は少しずつ勉強をするようになりました。本も週に1冊くらいは読むようになりました。それは,周りに勉強をしたり本を読んだりする人間が現れ始めたからです。親が何を言っても動かなかった僕が,環境につき動かされたのです。周囲に自分を同化させようとしたのです。
そして今,僕は勉強の時間を欲しています。読書の時間も欲しています。時間がないため,どちらも欲求不満な日々を送っています。いくら勉強してもどれほど本を読んでも全く飽きません。それどころかむしろ,もっともっと勉強したい読書したいという思いがこみ上げてきます。なぜなら,勉強をしたり読書をしたりしたことでいい思いをたくさんしたからです。貴重な経験を数多くさせてもらったからです。では,そのいい思いや貴重な経験とは何かと言いますと,それらは全て「自分の人間的成長」です。知らず知らずのうちに,この世で最も楽しいことは「自分が人間的に成長していくことだ」と気付いてしまったのです。
つまるところ,僕は人間を変えるのは「環境」と「成長の実感」なのだと思います。もちろん,どんな環境でもたくましく成長していける人もいるでしょう。でもそれは何万人に一人です。ほとんどはそうではありません。絶えず周囲に流されます。人はそれほど強くはありません。でもだからこそ,周囲の大人たちが子供たちの環境を少しでも良くするために,また子供たちが人間的な成長を実感し続けられるように,あらゆる準備をしていく必要があるのではないでしょうか。子どもに催促する前に,まず自分から行動するといったスタンスが生活のあらゆる場面で求められるのではないでしょうか。子どもに成長することの素晴らしさを伝えるために,大人たちも日々成長し続けなければならないのではないでしょうか。僕自身,「もっと早くから勉強していたら」や「もっと幼い頃から本を読んでいたら」という思いがあり,またそれをしていたならばまた違った人生だったのではと口惜しく思うことがあります。でもだからこそ,今という時間を大切に大切に過ごしています。
創優会の目的ももちろん同様です。僕は創優会を「良質の環境の中で,勉強を通じて子供たちに『生涯にわたり自分を支え,足元を照らし続けてくれるようなよりどころ』を手にしてもらう所」だと考えています。ただ勉強ができるようになりたいだけならそういう塾はたくさんありますし,そちらにいかれた方がいいと思います。しかし,子どもが学ぶべきことは勉強だけではありません。公教育がこれほどまでに荒れ果てすさんでしまった今,子供たちに周囲の大人が伝えなければならないことはたくさんあります。もう学校任せにできません。創優会はそれを正しく伝えていきたいと思いますし,そうすることが創優会の使命なのだと思います。
